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撮影後記といってもこの写真のではなく、レントゲン撮影後記。
胃の検診に初めて行った。胃を膨らませるための発泡剤を飲んだのも
バリウムを飲んだのも初めてだった。
小さな紙コップ一杯のバリウム130mlの質量は異様に重かった。
レントゲン撮影するための診察台は電動で様々な角度に動くが、
診察台の上では被験者も言われた通りに動かなければならず、
斜めを向いたり、うつ伏せになったり、胃の壁面にバリウムを馴染ませるために
体を3回転させたりもした。撮影の度に息を吸って~、吐いて~、息を止めて~、
を繰り返す中でゲップをしないように体位を変えることは意外にも
気を張らなければならなかった。
私は「あともう少しですよ」という撮影技師の言葉に気を抜いて
胃の中の空気を漏らしてしまった。レントゲン撮影が一旦中止となり、
再び発泡剤を飲むことに。
幼い頃、我慢していた小便を漏らしてしまった時のような気まずさを想い出した。
建物の外に出てすぐ目に入ったのが灰皿だった。
検査前日21時以降から検査終了まで何も摂取していなかったことを考えず、
私はいきなり無意識に煙草を吸った。体がざわつくのを感じた。
血管の収縮、筋肉が強張る様子が上半身から下半身にウェーブのように移りゆく。
ほんの一瞬、気が遠くなり風が冷たくなった。喉が乾いていたことも忘れた。
一歩一歩ゆっくりと自転車まで歩いた。
チェーンキーのダイヤルを合わせるのに少し手間取っていると、
急に頭に血が帰ってきたような圧迫感の中で
久しぶりに風がヒューヒューと音を立てているのを私は懐かしく想った。
ヒューヒュー、ヒューヒュー、ヒューヒュー。
視界の左から小さな女の子が走ってきた。
その女の子がヒューヒュー、と風の音を言っていた。
ヒューヒュー、ヒューヒュー、ヒューヒュー。
それが風の音を真似て女の子が言っているのか、
それともほんとの風の音だったのか区別できなかった。
しばらく耳を澄ませたまま、空を見上げても
風の音はもう私の心の中にしかなかった。
自分が歳を取り草臥れた体を有していることをあらためて感じたが、
時間の経過において心は体に反比例して若返りする感覚も実感した。
私は今日、老いてゆくことに初めてワクワクしたのだ。
その先にあるものを見据えたとしても。
想わず笑った。行けるところまで行こう、旅だから。
私は注意深くペダルを漕ぎ始めた。
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